転生悪役令嬢のお目付役

 そこから何を話したのか、あまり記憶にない。

 けれど、グラフィス家の屋敷に戻り数日が過ぎる頃には噂が駆け巡っていた。

『フィリップ王子は、グラフィス公爵令嬢のジュリアン嬢にご執心』だと。

 これは根も葉もないでたらめだ。あの場にいた使用人たちが、面白おかしく脚色したものに尾ひれがついてしまっただけ。

 そう思うのに、あの日のフィリップ王子が頭の中で鮮明に蘇る。

 どこか妖艶に微笑む、蠱惑的な表情の王子が。

 未だに思い出すだけで顔が熱くなり、忘れられない王子の姿を頭から追い出す。

 雷に打たれたせいで、誤作動を起こしただけ。フィリップ王子が少しだけジュリアン嬢に仕掛けた悪戯が、雪玉式に膨れ上がってしまっただけ。

 カトリーナ嬢と出会えば、絶対に大丈夫!

 湧き上がる他力本願な自信を胸に、私はノートに思いの丈を書き込んだ。
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