転生悪役令嬢のお目付役
固い決意を胸に紅茶のカップを手にしたところで、侍女のつぶやきに耳を疑う。
「元カイディン伯爵夫人が、ご主人様にどんなご用が……」
「えっ。元カイディン伯爵夫人が⁉︎」
驚きのあまり声を上げると、侍女は目を丸くする。
「す、すみません。無駄話を」
血の気がサアッっと引いていく侍女を、さすがに可哀想だと思う。
普段のジュリアン嬢になら、来客の人物に疑問を持ってもお嬢様の前でつぶやくヘマはしないだろう。私がぼんやりしているから、つい考えていた内容が口からこぼれた、という感じだったから。
そうだとしても、聞き捨てならない名前に食い入るように侍女の顔を見つめる。
「本当に、元カイディン伯爵夫人がみえるのね?」
侍女からしたら今ここで来客の名前を間違えでもしたら、一大事だ。ゴクリと喉が鳴るのが聞こえ「はい。確かにそうおっしゃられていました」と蚊の鳴くような声で、涙目になっている。
「そんな。早過ぎるわ」
元カイディン伯爵夫人は、グラフィス卿の再婚相手だ。けれどそれはまだまだ先の話。
フィリップ王子がカトリーナ嬢を婚約者に選び、傷心の頃。父が元カイディン伯爵夫人と再婚し、ジュリアン嬢は心の拠り所を失うという流れ。
今はまだ、フィリップ王子はカトリーナ嬢に出会ってもいない。
「再婚なんて、まだ先のはずよ」