転生悪役令嬢のお目付役

「殿下は変わられました」

「きみもそう思うかい? 雷に打たれたせいで、性格が変わったと側近に言われるよ」

 憂いを帯びた瞳に心を奪われそうになり、そっと目を逸らす。

「ジュリアン嬢、頼みがある」

「はい。なんでしょう」

「その猫を撫でていてくれないか」

 それはそれは夢のような時間。

 猫はふわふわしたグレーの毛並み。私が撫でている間は、気持ちよさそうに喉を鳴らす。
 その隙にフィリップ王子が猫の首辺りをかいてやっても、変わらず喉を鳴らしている。

「ハッ。こいつ俺が撫でていると気づいていないのかもしれないな」

 ビロードのような滑らかで深い声がすぐ近くに聞こえ、顔を上げられない。

 少しの散歩だからと、今は侍女を従えてはいない。彼の方も同じなのか、庭園の隅でふたりきり。

 特別に甘い雰囲気というわけでもないのに、胸が高鳴って仕方がない。
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