転生悪役令嬢のお目付役
不意に撫でていた手に、王子の手が触れる。
「キャッ」
咄嗟に手を引っ込めると、猫は驚いて逃げて行ってしまった。
「す、すみません」
非礼を詫び、震える手を握る。
「いや。俺の方こそ。出来心だ。美しい柔い手に触れてみたくなった」
「え」
目を丸くして揺れる瞳に、フィリップ王子を映す。
どれだけ見つめていただろう。
王子の唇が魅惑的に弧を描く。
「あまり見つめるな。溶けてしまいそうだ」
瞬間的に顔から火を吹く思いがして、体中が熱い。
そこへ庭園の石畳を進む、硬い足音を聞く。
「フィリップ王子。ここにいらっしゃいましたか」
嘆息を吐く王子の側近、スチュアートが鋭い眼差しを寄越す。
「逢い引きが知られたら、ことです。本当になにを考えていらっしゃるのか」
「わかっている。すぐに行く」
ひと時の夢は終わりを告げ、彼は立ち上がる。
「また茶会で会おう」
そう甘く言い置いて、王子は去っていった。私は侍女が探しに来るまで、その場から動けずにいた。