ビニール傘を差し出したら、結婚を申し込まれました。
明日は土曜日だが、特に予定はない。そう伝えると、ハルさんは少し言いづらそうに聞いてきた。
「父が君に会わせろってうるさいんだけど、明日の午後ここに呼んでもいいかな?」
「え……?」
「だめかな」
「だってハルさんのお父さんって、確か私のこと良く思ってないって話では……」
前に確かそんな話をしていた。「本当に大丈夫なのか」と聞かれた、と。
それで、私がハルさんの役に立てることを証明すれば認めてもらえるのではと考え、彼が頭を悩ませていた新作ジュエリーのデザインを一緒に考えようと……。
……あれ、そのデザインなら今日通ったって……。しかも彼はそのデザインが私のおかげでできたものだと認めてくれている。
あれ、それならもしかして。
説得できる……のかも?
私はばっと顔を上げる。
「ぜひ会わせてください。ハルさんのお父さんに」
強い口調でそう言うと、ハルさんは戸惑った表情を浮かべる。」
「いいの?」
「今日中に原稿考えておきます」
「原稿?」
「お父さんに話すこと考えておかないと、一言もしゃべれなくなる未来が見えるので」
明日ならあまり時間はない。私は可能な限りのスピードで夕ご飯を平らげると、そのまま部屋にこもった。
◇◆◇
夜中まで話すことをシュミレーションして、迎えた翌日。
途中で机に突っ伏して眠ってしまったせいで変な跡が顔に付いて、メイクで誤魔化すのが大変だった。
そしてハルさんの父親は、夕方頃にマンションにやってきた。
「突然悪いね晴仁。そちらのお嬢さんが夏怜さんだね。はじめまして、晴仁の父です」
そう言って握手を求めてきた彼は、写真で見たときよりも柔らかな印象だった。