ビニール傘を差し出したら、結婚を申し込まれました。
「はじめまして、直島夏怜です」
「確かにお綺麗なお嬢さんだ。晴仁の説明は大袈裟ではなかったようだね」
「父さん、夏怜ちゃんがお茶淹れてくたから立ってないで中入って」
少し話してみても、お父さんはやはり温和な感じがする。私のことを良く思っていないはずなのに、そんな雰囲気は全く感じられない。
テーブルでお父さんと向かい合った私はごくりと唾を飲み込んで口を開いた。
「あの、お父さんは私がハルさ……晴仁さんの恋人にふさわしくないとお考えですか?」
「ん?」
「自分でもわかっています。別に私はどこかの令嬢でもなければ、有名人でもない。晴仁さんに寄り添うには力不足だって思われても仕方ありません」
「誰かそんなことを言う人がいたのかい?」
彼はあくまで優しい口調で言った。
私はそれには答えずに続ける。一度黙ると、昨夜一生懸命考えた話す内容を忘れてしまいそうだ。
「晴仁さんが考えていたアクセサリーのデザイン、私も少しだけ協力させていただきました。晴仁さんは役に立ったと言ってくれていますが、正直自分では役に立っただなんて思っていません。私は少し、話し相手になっただけだったから」
私の隣で、ハルさんが戸惑ったように首を傾げているのがわかった。もともと私が、ハルさんの役に立てることを証明してお父さんに認めてもらおうと画策していたことを、彼も知っていたからだろう。
そう、そのつもりだった。だけど──
「結局今の私にできることは、彼の話し相手になることぐらいなんです。力不足なのは事実です。だからこそ、これから晴仁さんのためにできることを模索していきたいと思っています。晴仁さんの隣にいるためなら、どんな努力も惜しまないつもりです」
「夏怜ちゃん……」