ビニール傘を差し出したら、結婚を申し込まれました。
ハルさんが驚いたように私を見た。そして彼は微笑み、テーブルの下でそっと私の膝に手を伸ばした。
私はその手をギュッと握る。
「だから、晴仁さんとの関係を、認めてもらえないでしょうか」
言いたいことは全部言った。あとは何て言われるか。私は少しうつむき、ハルさんの手をまた強く握りしめる。
お父さんが呆れたように大きくため息をつくのがわかった。そして、少し怒ったような声で息子の名前を呼ぶ。
「晴仁」
「はい」
「お前、夏怜さんが何か勘違いしているのを知っていて黙っていたな?」
「実は」
……ん?勘違い、とは?
私がきょとんとして顔を上げると、お父さんがすまなそうな顔をして頭を下げた。
「夏怜さん、あなたは晴仁から、わたしが二人の仲を良く思っていないのだと聞いていたんだね?」
「……はい」
「それは事実だ。だが、決してあなたが晴仁に相応しくないと思っているのではない。むしろその逆だ」
「逆?」
「わたしが心配しているのは晴仁ではなく、夏怜さん、あなたのことだ。まだ学生で、若い輝きに満ちたあなたが、晴仁の勝手な想いで、好きでもないのに縛り付けられているのではないかと心配だったんだ」
「私のことを……?」
市ヶ谷親子の顔を順々に見比べる。やっぱり少し似てるな、などと思ったが、今はそこじゃない。
私は額を押さえて「つまり?」と聞く。
「父さんは、夏怜ちゃんが本当に僕との関係に納得しているなら、初めから反対するつもりはなかったってこと」
「何それ……」
それなら、今まで気に病んでいたのはいったい何だったんだ。そう思うとどっと疲れが出てきた。
思えば、確かにハルさんはお父さんから心配されたとしか言っていなかったかもしれない。それでも。