ビニール傘を差し出したら、結婚を申し込まれました。


「父さんに言ってたことは本心だったって思って良いのかな?」

「……」

「聞いた時、すごく嬉しかったんだよ?」


 ハルさんは「目、逸らさないでこっち見てよ」と言って、こつんと額をぶつける。


「夏怜ちゃんが感情を表に出すのが苦手なことは知ってるし、それでも結構気持ちを察せるようになってきた自覚はある。だけど、やっぱり時々不安になるんだ。僕が一方的な想いをぶつけてるだけで、君は無理をしてるんじゃないかって」

「そんなこと……!」


 ……無理なんてしているはずない。

 人付き合いが苦手な私が初めて抱いた、本気の恋心だ。
 もし彼の父親に反対されて、仲が引き裂かれたら……。そう考えたら、本当に怖かった。

 ハルさんは、「やっと目が合った」と言って、ふわりと笑った。


「もちろん、夏怜ちゃんの気持ちを本気で疑ってるわけじゃない。だけど、その気持ちを言葉にしてくれた時は本当に嬉しいんだよ。大晦日に電話した時や、今日みたいにね」

「……」

「ねえ、あのとき電話で言ってたこと、もう一回言ってよ」


 頬の熱がじわりと上がる。

 結んでいた唇を、小さく開いた。


「……大好きです……っ」


 きゅっと顔を持ちあげられ、唇を塞がれた。

 頬に触れていた彼の手が離れ、抱きしめられた。


「夏怜ちゃん……、僕も君のことが好きだ」


 漏れ出る熱い吐息と一緒に、ハルさんの言葉が耳に届いた。

 密着したことで伝わってくる体温に、ドクンと心臓が高鳴る。私は、自分でも彼を強く抱きしめ返した。


「ハルさん……。気持ちを言葉にできていなくてごめんなさい」

「うん」

「でも私は本当に、あなたのことが好きです」


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