ビニール傘を差し出したら、結婚を申し込まれました。
彼はまた「うん」とうなずく。そして言った。
「もう一回キスしてもいい?」
「……はい」
静かに目を瞑ると、また唇が重ねられた。
繰り返し重ねられるキスは、次第に深いものになっていく。
貪るように激しいのに、それでいてどこか優しいようにも思える口づけに、だんだん頭がぼんやりとしてきた。
好きだ。私はこの人のことが本当に好きだ。
彼のお父さんは、私がいなくなるとハルさんは腑抜けになってしまうというようなことを言っていた。しかし、きっとそれは逆ではないかと思う。
私は人とコミュニケーションをとるのが苦手で、友達が少ない。だから一人でいることにっだって慣れている方だった。でも今は、ハルさんがいなくなってしまったら、きっと耐えることはできない。
……彼のことをもっと近くで感じていたい。
「夏怜ちゃん」
ハルさんがゆっくり、顔を離した。
「そろそろ止めないと、まずいかも」
私のことを抱きしめていた腕の力も弱める。
何がまずいんだ。私は手に力を込めて、彼をギュッと抱きしめる。
ハルさんにとってその動きは想定外だったらしく、簡単にバランスを崩し私の方に倒れ込んだ。
「……まだダメです」
「ダメって?」
「まだ抱きしめていてください」
……ちょっと待って何を言っているんだ私は。欲望が駄々洩れじゃないか。
ハルさんはどうにか体勢を立て直し、困ったような怒ったような、複雑な表情で私を見た。
「あのさ夏怜ちゃん」
何やら機嫌を損ねてしまったのだろうか。ふいと目を逸らされ、不安が広がる。
ハルさんは頭を抱えて大きくため息をついた。