ビニール傘を差し出したら、結婚を申し込まれました。
「僕は夏怜ちゃんより一回りぐらい年上ってこともあるし、大人として余裕を持って接したいなと思ってる。君が嫌がることをするつもりもない」
「はい……」
「だからって、僕が強靭な理性を持ち合わせてるのかといえば、全くそんなことはないよ。僕だってもっと抱きしめていたいけど、もう本当……自分でも君に何するかわからないから」
ハルさんは「わかったら今日はくっつくの終わり」と付け加えてもう一度ため息をつき、ソファーから立ち上がった。
「ちょっとシャワーでも浴びてくる」
「さっきお風呂入ってませんでした?」
「冷たい水でも浴びたくて」
「風邪ひきますよ」
「大丈夫大丈夫。テレビ付けとく?って……夏怜ちゃん」
私は、ハルさんと同様にソファーから立ち上がり、後ろからぎゅっと彼のことを抱きしめていた。
「さっきの話、聞いてた?」
「聞いてました」
「何するかわからないって言ったよね」
「言ってましたね」
「……十秒以内に離れないと、本気で部屋に連れ込むよ?」
「どんとこいです」
絶対に離れない、という意思表示のように、私は手に力をこめる。
ハルさんは、私の手に自分の大きな手を重ねて言った。
「本気?」
「こういう冗談が言えるタイプではないので」
「……だよね」
ハルさんはくすりと笑って振り向いた。
「何?覚悟が決まった?」
「わからない……けど、もっとハルさんに触れてほしいって思ったから」
「そっか。わかった」
彼はそう言って、私の頬に軽く口づけた。そして、肩を抱き寄せる。
ドクンドクンと大きく心臓が跳ねる。
部屋に向かう足取りは、ゆっくりとしたものだった。考える時間を与えてくれているのかもしれない。