ビニール傘を差し出したら、結婚を申し込まれました。
Epilogue☂︎
◇◆◇


 春休みに入り、優羽さんのカフェでバイトをする時間が少し増えた。
 春限定の桜ミルクティーラテを買い求めるお客さんが意外に多く、今日も普段よりも店内が慌ただしい。

 それでも四時過ぎにはひと段落した。テーブルを拭いていると、優羽さんに肩を叩かれた。


「夏怜ちゃん、少し早いけど上がってもいいよ」

「え?でもまだ三十分近く……」

「今日は忙しかったからおまけ。それにほら、お迎え来たみたいだし」

「え?」


 優羽さんは店の入り口の方を指さす。目を向けると、いつの間に来たのかハルさんが立っていた。彼は私が見ていることに気が付くと、申し訳なさそうに微笑んで手を振ってきた。

 ちなみにハルさんは、私のバイト中に数回店に来たことがあるため、優羽さんにも認知されている。


「夏怜ちゃんの彼氏さん、本当にかっこいいよね……。私の旦那さんの次にかっこいい」

「人の彼氏褒めるふりして惚気るのやめてください」

「えへへ」


 優羽さんは頬を桃色に染めて照れ笑いを浮かべる。可愛い。

 結局私は、お言葉に甘えて早めに上がらせてもらうことにした。急いで着替えて店内に戻ると、ハルさんは席に座ってコーヒーを飲んでいた。


「ハルさん、お待たせしてすみません。行きましょうか」

「最初から待つつもりで来たから、慌てなくても良かったのに」

「いえ、せっかく時間をもらったので、少しでも一緒にいたいじゃないですか。……それに今日は、ハルさんの誕生日ですし」


 三月十七日。彼の三十二歳の誕生日だ。

 「お疲れ様、またお願いね」と言う優羽さんに会釈して、私はハルさんと一緒に店を出た。


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