ビニール傘を差し出したら、結婚を申し込まれました。
「へえ、長谷くん彼女できたんだ」
ハルさんが安心したように言った。
「まあ夏怜ちゃんを好きになるぐらいだから女の子を見る目は確かだろうし、おめでとう」
「おかげで毎日惚気話聞かされてばっかりですよ」
「あはは、お疲れ様」
「でも長谷にそう言ったら、『惚気話ならお前の方が三倍はしてるだろ』って言われましたけど」
「待ってどんな話してるの?その一割で良いから聞かせて!?」
「何で本人に言わなきゃならないんですか」
そんなの恥ずかしくてできるか。
ハルさんは苦笑して、それから思い出したように「おめでたいことといえば」と言う。
「澪と橋岡、ちゃんと籍入れたらしいよ」
「え、そうなんですか」
「うん。仕事にも慣れてきて余裕ができたからって。澪、夏怜ちゃんに会いたがってた」
「私も会いたいです」
「来週にでも会いに行こうか。結婚指輪まだ買ってないらしいから、うちのやつ売り付けに行こうと思ってる」
元婚約者に自分の会社の商品売りつけるのか。商魂たくましいな。
そういえば、私の両親も結婚指輪は“ICHIGAYA”のものだったと言っていた。
店頭の目立つところにに並んだ商品はよく見ていたが、結婚指輪を見たことはない。
「“ICHIGAYA”の結婚指輪ってどんなデザインのものがあるんですか?」
そう尋ねると、ハルさんはどこか嬉しそうに微笑む。
「お、興味ある?」
「少し」
「何と偶然にも、あそこの歩道橋を渡った先に支店があるんだけど……レストラン予約した時間までまだある?」
「はい。七時に予約したのでまだまだです。バイトも早く終わりましたし」
「なら決まり」