ビニール傘を差し出したら、結婚を申し込まれました。
Chapter2☂︎*̣̩・゚。・゚
◇◆◇


 直島夏怜(かれん)、大学二年生の初秋。

 唐突に始まった、有名なジュエリーブランドの副社長(美青年)との同居生活。
 その感想を一言で言うと──想像以上に快適だった。


 初日、元いたアパートから服などのどうしても必要な物だけを持ってこの高層マンションに足を踏み入れたときは、これまでの生活との格の違いに頭が軽くパニックになった。

 まずはだだっ広いエントランスがあるのとに驚いた。そしていかにも最新式といった様子のエレベーターに乗り込み、あっという間に30階まで上がる。
 そして鍵はカードキーでオートロックだ。何かかっこいい。

 夕食はデリバリーを取ってくれたのだが、ピザだのお寿司だのではなく、名前のわからないハーブがのっているようなサラダやスープにドリアだった。
 本人いわく、若い女の子が好きそうな物を精一杯考えてみた結果らしい。美味しかったけれど落ち着かない。前日まで夕食といえばもやしのサラダと冷凍の魚を焼いたやつ、あとは味の薄い味噌汁とかだったから。

 色々話し合った結果、週に四日家政婦さんの来ない日の夕食と毎日の朝食は私が作るということでまとまった。……そう、週に三日は家政婦さんが来るのだ。
 無料で住まわせてもらうからには家事ぐらいしようと思っていたのに、学生は学業が本分なんだから家事はその家政婦さんに任せるようにと言われてしまった。
 ……まあ、あまりの部屋の広さにきちんと毎日掃除ができる自信はなかったから助かったといえば助かった。マンションの一部屋なのにその中に階段があるとか聞いてない。


 とまあそんな調子だったのだが、不思議なもので一週間も経つとすっかりこの生活に慣れている自分がいた。


「おはようございますハルさん。朝ごはんできてるので食べちゃってください」


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