ビニール傘を差し出したら、結婚を申し込まれました。


 パッと顔を輝かせる長谷。実に素直だ。私と遊んで本当に楽しいのかという疑問は残るが。


「どこって……どうせいつものゲームセンターでしょ?」


 一駅ほど先にある大なゲームセンター。長谷と遊びに行くときは大体そこだ。
 ゲームは得意な方ではないのだが、長谷が百円で長く遊べるゲームを教えてくれるので結構楽しめる。


「だなー。あ、あのゲーセンの近くにクレープの店できたらしいぜ」

「行く」

「ははっ、即答かよ。ほんと甘いもの好きだよな」

「うん。ちなみに私の中で今一番ブームなのは優羽さんのキャラメルミルクティーラテ」


 バイト先のカフェの期間限定メニューだ。その名前を聞いて、長谷は「うわぁ」と苦笑する。


「めちゃくちゃ甘そうだな」

「ラテ自体は割と甘さ控えめ。だから生クリームをトッピングするのが好き」

「まじかよ。でもまあそんなら今度お前がバイトしてるときに買いに行くわ」

「うん。優羽さんも喜ぶと思う」

「お前がよく話してる、既婚者だけど男性ファンがっていう多い美人店長さんな」


 長谷は楽しそうに笑ってパンにかじりつく。


「まあとにかく、授業終わったらお前のとこのアパート前まで迎えに行く」

「あ、えっと……」


 長谷に言われて、私は言葉を詰まらせた。

 今のところ、ハルさんと同居しているという話は誰にもしていない。話すような相手がいないというのもあるが、大して知りもしない一回り年上の男性と同居をしているなどという話はさすがにおいそれとしてはいけない気がする。

 それでも、別に長谷ぐらいになら話しても大丈夫だろうか。口止めされているというわけでもないし。


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