ビニール傘を差し出したら、結婚を申し込まれました。
「心配しなくてもそんな人じゃないと思う。顔が良くて地位もある人生勝ち組みたいな人だし。私なんか捕まえなくてもその気になれば女の人なんて腐るほど寄ってくるでしょ」
「じゃあその婚約者役ってのも腐るほど寄ってくる女の中から選べばいいじゃねえか」
「婚約者役は欲しいけど本気になられるのは困るとかじゃない?」
「自分勝手すぎんだろ」
「でも、正直私も助かってるから。本当に心配しなくて大丈夫だよ。部屋も専用の個室使わせてくれてるし」
「当たり前だろ!ったく、その程度で安心してんじゃねえよ……」
大きな大きなため息をつき、長谷はガシガシと頭を掻きむしる。
それから何故かまた頬を赤らめ、そっぽを向きながら何やらボソボソと言った。
「こっちの気も知らねえで……つーかそれなら、家賃さえ払えば俺とも同居できるってことか?」
「何て?」
「何でもねーよ!!」
「うるさ……」
小さな声を聞き取ろうと耳を澄ませていたところに今度は大声で叫ばれ、耳がじーんとなる。
顔をしかめる私にお構いなしで、長谷は「そうだ」と何かを思いついたようにポンと膝を叩く。
「夏怜、予定変更だ。ゲーセンはまた今度にして今日はその男に会わせてくれ。俺が見極める」
「はあ……」
「絶対にボロ出させてやる。下心がないってのは有り得ねえんだよ」
「あの、長谷」
「だから夏怜は帰らずに俺の講義が終わるまで図書館かどこかで時間潰しててくれ」
「別に良いけど、ハルさんいつ帰ってくるかわからないよ」
「そんなの帰ってくるまで待ってるからいい」
「あと……クレープは?」
ゲームセンターに行くのをやめるなら、クレープも今日はなしだろうか。もうすっかり食べる気でいたのに。