ビニール傘を差し出したら、結婚を申し込まれました。
長谷は表情を固くしてうなずいた。
七時に帰ってくる保証はないのに。いつまで待つつもりなんだろう。
私は軽くため息をつき、クレープにかぶりつく。めちゃくちゃ甘い。でも美味しい。
夢中で食べ進めていたところに、ふと視線を感じて顔を上げて隣を見た。
「……何?」
私の方をじっと見つめる長谷と目が合って、怪訝に思い首を傾げる。
「あ、いや……」
すぐに目を逸らされた。何なんだいったい。
まあいい、食べることに集中しよう。そう思ってしばらく黙々とクレープを食べ進めていると、今度はくくっと笑い声が聞こえた。
「だから何?」
「お前、ほっぺたにクリームついてんぞ」
「え、どこ」
「ここだよ。取ってやるからじっとしてろ」
長谷のしっかりとした指が、私の頬に軽く触れる。
食べるのに夢中でクリームを付けてるのに気が付かないとは、子どもみたいで結構恥ずかしい。
長谷は「よし、取れた」と言って、指に付いたクリームをペロッと舐めた。
「甘っ。こんなのよく食えるな」
「そっちこそ、せっかくのクレープなのに甘くないの選ぶなんてもったいない」
おかずクレープなんて邪道だ。
そんな馬鹿なことを言い合っていた時だった。
「あれ、夏怜ちゃん?」
誰かに名前を呼ばれた。
声の方を見ると、黒い車が公園の入口近くに停まっていた。その助手席の窓を開け、私たちの方を見ていたのは、少なくともあと二時間は待っていないと会えないと思っていた人だった。
「ハルさん」
私の呟きを聞いて長谷が「えっ」と声を上げる。
ハルさんは運転席の方に何か声を掛けてから、車から降りて、私たちの方へ近づいてきた。