ビニール傘を差し出したら、結婚を申し込まれました。
長谷とは仲の良い友人だ。男女間の友情は恋愛関係に勘違いされやすいものなのだろう。
きっぱりと言い切った私に、ハルさんは苦笑いを浮かべた。
「別に長谷くんの味方をしてあげるつもりはないけど、ちょっと不憫だな」
「何がです?というか、ハルさんも『友達に見える』って言ってませんでした?」
「……あれは強がってみただけ。大人気ないよな我ながら。一回りも下の子に翻弄されるのも嫉妬するのも、本当に僕らしくない」
彼はぼそりと吐き捨てるように言う。まるで私が長谷と仲良くしていたことが気に入らないかのような言い方だな、と少し引っかかる。
私の抱いた疑問に気づいたかのように、ハルさんは軽く目を伏せてから言った。
「まあ要するにちょっと悔しかったんだよね。少し一緒に暮らして親しくなれたように思ってたけど、実際は夏怜ちゃんのこと全然知らないって思い知らされたみたいで」
ぱちくりと瞬きしてハルさんを見つめる。彼はすねたような表情で目を逸らしていた。
私は何と答えるべきかわからず、食べかけのカレーに視線を落とす。無言のまま、またゆっくりとスプーンを動かした。
「そんなこと言われても困るよね。ごめん」
ハルさんはそう言って、柔らかく笑って見せた。今の発言はなかったかのようにカレーを食べて「美味しいね、おかわりある?」などと聞いてくる。
わからない。私が長谷と仲良くしていて何が悔しいのだろう。飼い犬が他人に尻尾を振っていて悲しかった……というようなことだろうか。
考えてみても答えは出ないので、私はその辺りで納得しておくことにした。