ビニール傘を差し出したら、結婚を申し込まれました。
高ぶる感情を懸命に抑えるようにして話す長谷へ、私は静かに尋ねる。
「突然だね。昨日橋岡さんに言われたから?」
「あいつが何言ってたかは関係ない。ずっとお前らの関係はおかしいって思ってた。けど、お前が納得してるみたいだったから黙ってたんだよ。だけどな……やっぱり我慢できない」
私の手を握る力が強まった。
「俺はお前のことが好きだ。好きな女が他の男と同居しているってのが面白いわけねえだろ」
「は……」
「冗談で言ってるわけじゃねえからな。俺は本気だ」
好き、と言われた?混乱してフリーズする。
聞き間違いでなければ、今、大学に入ってから一番仲良くなった友人に、人生で初めての告白をされた。
「えっと……」
「お前が俺のことを友達だとしか思ってないのは知ってる。でも俺は、けっこう前から友達以上に思ってた」
「……知らなかった」
聞き間違いではなさそうだった。
戸惑いと申し訳なさが胸に広がっていく。
長谷のことは友達だとしか思っていなかった。いや、冷静に考えてみると、人とコミュニケーションをとることが得意ではない私は『友達』という関係でもいっぱいいっぱいで、それ以上の感情まで考えを及ばせるほどの余裕がなかったのかもしれない。
以前ハルさんは、私と長谷が「恋人みたいに見えた」と言っていた。男女の友情が恋愛関係に見えてしまっただけだと思っていたが、本当は長谷が私にそういう感情を持っていたから、そう見えてしまっていたのだろうか。
「……返事は今すぐじゃなくていい。だから──少し、考えて欲しい」
「あ、待って」
「次の講義の教室遠いからもう行く。じゃあな」
呼び止めるも、長谷は振り向くことなく行ってしまった。
私はただ、呆然とするしかなかった。