ビニール傘を差し出したら、結婚を申し込まれました。
はあっと大きく息を吐き、ハルさんはぶつぶつと独り言のように呟く
「ったく、いかにも草食系っ感じだったし告白するなんてことは当分ないだろうと踏んでたんだけどな……」
私はそんな彼を見ながら箸をテーブルに置き、お茶を少し飲んで口を潤してから尋ねた。
「ハルさんは、長谷が私のことを好きなんだって気づいてましたか?」
「そりゃわかるよ。僕のことずっと睨んでたし」
「私は全然気が付かなかったんです。良い友達だって思ってた」
「そうみたいだね。……で、どうするの?」
どうするの、という問いの意味が一瞬わからなかった。
私はハルさんの婚約者役だ。普通に考えて、付き合うなんてできない。
そう言おうとした私に、ハルさんは真剣な眼差しを向けた。
「一回、僕との関係はないものと仮定して考えてみてよ。婚約者も恋人もいない君が、ずっと友達として仲良くやってきた長谷くんに好きだと言われた。そうしたら付き合う?」
「それは……」
長谷が私の恋人。休みの日には一緒に出掛けたり、手をつないだり、キスしたり……。だめだ、全く想像できない。
だけど、そこで断れば友達ですらなくなるのだろうか。大学内で唯一と言っていい友達が、私の元からいなくなる。そっちの方が想像できないかもしれない。
なかなか答えを出せない私に、ハルさんは重ねて言う。
「僕と長谷くん。どっちが夏怜ちゃんの恋人に見えるかって聞かれたら、ほとんどは長谷くんが恋人に見えるって答えるだろうね」
「そんなこと」
「僕と夏怜ちゃんの年の差は十一歳。恋人としても夫婦としても、別に特別珍しい年齢差じゃないだろうね。それでもさ……夏怜ちゃんも成人はしていてもまだ学生だし、やっぱり同世代の子と一緒になるのが自然なんじゃないかなって思ったりもするんだよ」