ビニール傘を差し出したら、結婚を申し込まれました。
「帰れる所を残しておいてしてくれた……?」
私がハルさんとの生活に耐えられなくなってしまったとき、逃げようにも寝泊まりする場所がなければ逃げることはできない。彼は私のためにその場合を想定していたのではないか。
そもそも私がハルさんの申し出を絶対に受け入れようとしなかったら、実はそれ以上無理強いをするつもりはなかったのかもしれない……というのは考えすぎだろうか。
「ほんと……何考えてるのか全然わからない」
小さい独り言は、テレビの音にかき消される。それでも、一人でいると声の出し方を忘れてしまうのではないかという妙な不安に襲われるので、一人暮らしを始めてから積極的に独り言を言っていた。
でもハルさんと暮らすようになってから、いつも彼が話し相手になってくれたので、独り言を言うことはほとんどなくなっていた。私と違ってコミュニケーションをとるのが上手な彼は、相づちや質問を入れるタイミングが完璧で、つい色々と話してしまったりもした。
逆にハルさんは自分のことをそう多く語ろうとはしない。もちろん尋ねれば答えてくれるが、自ら進んで話したりはあまりせず、どちらかといえば私から話を引き出そうとするような話し方だった。
……本当はハルさんのこと、もっと知りたい。誰かのことをこんなに知りたいと思ったのは初めてだ。
「ハルさんに会いたい」
無意識に口からこぼれた呟きに、自分でもかなり驚いた。
最後に会ったのは昨夜だ。さすがに恋しくなるのが早すぎではないか。というか、顔を合わせるのが気まずくてここに来たはずなのに。
ほんの数か月で、それだけ彼と過ごすことが当たり前になっていたのだ。
というか……