ビニール傘を差し出したら、結婚を申し込まれました。
連れてこられた部屋を見て、思わず「わあ……」と声が漏れる。
広い。ホテルといえばバスルームとベッド、テレビがあるだけの一部屋というイメージしかなかった。だが、ここにはまずリビングらしき広々とした空間がある。その先の別の部屋がベッドルームになっているという構造のようだ。スイートルームというのはこんなに広いのか。
家具は全体的にアンティーク調のものに統一されており、明るすぎない電球色の照明が落ち着いた雰囲気を作り出している。
「ごゆっくりお過ごしください」と言ってベルボーイが去って行ったのを見届けて、私は窓際へと駆け寄った。
「綺麗……」
眼下には聞いていた通りの美しい夜景が広がっている。ハルさんのマンションから見える夜景も綺麗だとは思っていたが、やはり全然違う。
ハルさんは外の景色に釘付けになっている私の隣に並び、「夜景は気に入った?」と聞いた。
「すごく綺麗です。それに部屋も」
「良かった。とりあえず座らない?お茶でも淹れようか」
ハルさんに促され、私は夜景の見える窓に向かい合うようにして設置されているソファーに腰をかけた。
ふんわりと柔らかく、ゆったりと沈み込むような、これ以上ないほどくつろげる座り心地だ。さすが高級ホテルのスイートルーム。
「はい、紅茶。ここに置くね」
ハルさんが良い香りのする紅茶を持って戻ってきた。
ソファーの前の小さなテーブルに、湯気の立つ白いティーカップを置く。そして私の隣に座った。
彼は大きく息を吐いて、おもむろに私へ寄りかかってきた。
「はあぁ……疲れた」
寄りかかられた肩の重みに、心臓がどきりと高鳴る。