ビニール傘を差し出したら、結婚を申し込まれました。
「あの場所に私必要ありましたかね」
ドキドキしてしまっているのを悟られないように、わざと拗ねたように言う。
「もちろん」
「一言もしゃべりませんでしたけど」
「僕は夏怜ちゃんがいてくれたから落ち着いて話ができたよ」
ハルさんは私の肩に寄りかかったまま上目遣いで私を見上げて微笑む。
顔の良い人の上目遣いは破壊力が半端じゃない……。私は「どうだか」と言いながら思わずふいと顔を背ける。
それから、あの場で何も話さず静かに成り行きを見守っていた間に感じたことを口にした。
「婚約者役を必要としたのは、澪さんが橋岡さんについて相談してくれるように仕向けるためですか?」
「ん?」
「澪さんにとってハルさんは、昔から悩みを相談し合えるような知る幼馴染みだった。だけど、今は同時に元婚約者です。自分が選ばなかった人に選んだ人とのことを相談はするというのはなかなかできませんよね。でも新し婚約者がいたのなら、また状況も違う……」
橋岡さんのことに悩んでいた澪さんは、ハルさんに相談できるのが嬉しかったのだと言っていた。だが相談ができたのは、きっと私の存在を聞いた後だったから。何なら私に対してやったときと同じように、自分からまず「新しい婚約者」について相談をしてみたりしていたかもしれない。
ハルさんはやっと体勢を戻して、くすりと笑った。
「考えすぎ。残念ながら僕はもっと身勝手な人間だから」
「そうですか?」
「そうだよ。今だってもう澪たちのことなんか忘れて、どうやって夏怜ちゃんを丸め込もうかってことばかり考えてる」
「丸め込む……?」