ビニール傘を差し出したら、結婚を申し込まれました。
何のことかと首をかしげる。すると、ハルさんのしなやかで大きな手が、私の頬に触れた。
「でも上手い言葉が浮かばないから、そのまま言うことにする」
「え?」
「夏怜ちゃん、僕は君のことが好きです」
一瞬、何を言われたのかわからなかった。
頭の中でその言葉を反芻し、ようやく理解すると、先ほどの比ではないぐらい心臓がバクバクと音を立てる。
見つめてくるハルさんは、口元に笑みを浮かべているものの目は真剣で、今言ったことが本気だというのがわかる。そしてわずかだが、私の頬に触れている手は震えている。
それに気づいた私は、そんな彼をまっすぐ見つめ返しながら言った。
「私も好きです」
抱いた恋心を相手に伝えるというのはもっと難しいものだと思っていた。だがその言葉は存外はっきりとした声で言えた。
……そう思ったのだが、ハルさんは目をぱちくりさせて「え……?」と聞き返してくる。
「だから、私もハルさんのことが好きです」
「えっと、本気で言ってる?からかわれてるわけじゃない……よね?」
「はい。……あれ、ハルさんはそういう意味で言ってくれたんですよね?私何か勘違いしてますか?」
「いや、してない……と思う」
ハルさんは少し戸惑ったように手を引っ込め、「ごめん」と呟く。
「まさかすぐにそう答えてもらえると思ってなくて。ちょっと驚いた」
「私はちょっとじゃなくてめちゃくちゃ驚いてます」
「はは、だよね。……だけど本当に?三十路過ぎなんて夏怜ちゃんにとったらおじさんじゃない?正直、そういう対象として見てもらえるかどうかすら自信なかったんだけど」
私はふるふると首を振る。それを言うなら、私が彼にとっては子どもなんじゃないだろうか。