ビニール傘を差し出したら、結婚を申し込まれました。


 そう思って勝手に少し悔しくなってしまった私は、ソファーに膝をつくような体勢になり、ハルさんに顔を近づける。そして、彼の頬にそっとキスをした。


「……これで信じてもらえますか?」


 体温が三度ぐらい上がったような気がする。

 ハルさんは額に手を当てて、天を仰ぎながらはあっと大きく息をついた。


「あーもう。何でそんな可愛いことするかな」


 次の瞬間、私はグイっと強めの力で抱き寄せられた。


「夜景が綺麗に見えるところで想いを伝える。その答えがどんなものでも、伝えられるだけで十分。……そのつもりだったのに」


 ハルさんは先ほどの仕返しだとでも言うように、私の頬に唇を付ける。反射的にその場所を手で押さえると、今度は唇にキスを落とされた。


「あ、珍しい。そういう表情もするんだ」


 ハルさんがいたずらっぽく笑った。
 どんな表情をしているのかは自分ではよくわからない。だが、何となくいつもは使わない表情筋が使われているような感覚がある。


「今の……ファーストキス……」

「嫌だった?」

「……嫌じゃない」

「よかった」


 そっと唇に触れてみる。ファーストキスはレモンの味だとどこかで聞いたが、正直味はよくわからない。だが、大好きな甘いものを食べた後のような幸せな気分で胸が満たされている。

 私を抱きしめたままのハルさんに、もう少しこのままでいいかと聞かれ、ゆっくりうなずく。


「あの、ハルさんは澪さんのことは好きだったんですか?」


 絶対今聞くべきことではないと理解はしているのだが、ずっと知りたかったことだからか、思わずこのタイミングで聞いてしまった。
 澪さんは確かに橋岡さんのことが好きだったのかもしれない。だけどハルさんは……?


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