ビニール傘を差し出したら、結婚を申し込まれました。
尋ねられた彼は、特に気を悪くした様子もなく答えた。
「幼馴染みとして、という意味でなら好きだったけど、恋愛対象としては見てなかったかな」
「でも婚約してたんですよね」
「まあ父は乗り気だったし、僕に恋人はいなかったからね。それに、昔から澪みたいな人は絶対に幸せになるべきだと思ってた。だから僕が幸せにしてあげられるならそれもありかな、とは考えていた」
「澪さん、素敵な人ですもんね」
「うん。でも正直、澪が幸せになるなら、彼女を幸せにさせるのは誰でも良かった。だけどね夏怜ちゃん」
ハルさんは言葉を切って、じっと私を見つめた。
「夏怜ちゃんに対してはそんな風に思えない。たとえ僕以上に夏怜ちゃんのことを幸せにできる存在が目の前に現れたとしても、絶対に譲りたくない」
「でもこの前、長谷に告白されたって話したときは……」
「付き合いたいならそうすれば良いって言った?あんなの本気なわけないじゃん。精一杯見栄張ってたんだよ、あの時。……まあ、一回りも上の僕のことを好きになってもらえるわけがないっていう自信の無さが現れたっていうのもあるけど」
そうだったんだ。拗ねたように言うハルさんに、意外な気持ちになる。
もしかしたら、私が想像している以上に、ハルさんは私が年下であることを気にしていたのかもしれない。
だけどそれも当然か。今でこそ一応成人同士ではあるが、考えてみればハルさんが今の私と同じ年齢の時、私の年齢はまだ一桁だった。ハルさんは私よりもずっと大人なんだとはわかっていたものの、そう考えるとさらにその事実が重くのしかかってくる気がした。
「ハルさん」
私はギュッと彼の手を握って言う。
「私、婚約者役なんていうよくわからない関係じゃなくて、あなたの恋人になりたい……です」