ビニール傘を差し出したら、結婚を申し込まれました。
年の差が何だ。好きな人のことを堂々と好きだと言える関係になりたい。
ハルさんはふわりと笑って答えた。
「ねえ、気づいてた?僕は一度も婚約者“役”だなんて言ってないよ」
「え?」
「僕が君に言ったのは、『結婚してくれないか』っていうのと『婚約者になってほしい』の二つ」
「……つまり?」
「初めから、夏怜ちゃんには僕の本当の妻になってもらいたいなって思ってた。勝手に“役”だと捉えたのはそっち」
「え、でも──」
私は記憶を辿ってみる。確かに“役”だとは言ってなかったような気がしてきた。
それでも、会ってすぐに、しかも高層マンションに住むことを引き換えにしてくるなど、本気で結婚を申し込まれているとは思えなかった。
「それならいきなり結婚なんて言わずに、もっと段階を踏んでくれたら良かったのに」
「本当だよね。本気で誰かを欲しいって思ったのが初めてだったから、焦ってたのかも」
私の不満に、ハルさんはすまなそうに目を伏せた。それから私の手を握り返す。
「じゃあ改めて言わせてもらうね。夏怜ちゃん、結婚を前提に僕の彼女になってください」
「……よろしくお願いします」
私がうなずいてはっきりとした声で言うと、ハルさんは嬉しそうに笑顔を浮かべ、またギュッと私を抱き寄せた。
あごをしっかりした指に持ち上げられ、柔らかな感触に唇を塞がれる。
一瞬離れたと思うとまた塞がれる、というのを何度か繰り返した。
自分でだんだんと呼吸が荒くなってきているのがわかる。
「好き……です」
頭がぼんやりとしてきた私は、うわ言のように呟く。
「まずいな……。そういう可愛い反応されると我慢できなくなる」
「っ……」