ビニール傘を差し出したら、結婚を申し込まれました。
「ちょっと仕事がね。今通常の仕事とまた違ったことやってるから」
「どんなことですか?」
「デザインを少し。あ、そうだ」
ハルさんは何かを思い出したように席を立ち、「ちょっと待ってて」と言って自分の部屋へと消える。二分ほどで戻ってきた彼の手には小箱があった。
「これ、プレゼント」
「これは?」
「目、閉じて」
素直に従うと、首元に細くひんやりとしたものが当たる。
「ネックレス……?」
「わあ、想像以上によく似合う」
鏡を渡されて見てみると、きらりと光るペンダントが胸元にあった。
リングのようなものがいくつか組み合わされたような形の中に、輝くダイヤモンドが控えめに見えるというデザインだ。
「このネックレスは僕が夏怜ちゃんをイメージしてデザインしたものなんだ」
「私を……?」
一瞬驚いたが、鏡をのぞきこんでいるうちに思い出した。
「嘘ですね。半年以上前にこのデザインのネックレスが店に並んでるの見ましたよ」
「へえ。よく知ってるね」
「まあ、ハルさんと知り合う前から“ICHIGAYA”のブランドに興味はあって、店もたまにチェックしてたので……あ」
私は言ってしまってから慌てて口を押さえる。思わぬところでボロを出してしまった。
“ICHIGAYA”の支店は、地元にもあった。このブランドのアクセサリーのデザインはどれも好みで、昔から「大人になったら買おう」と心に決めていた。
こちらに来てからも、大きな商業施設の中に地元にあったものよりさらに大きな店舗を見つけた。毎日の生活費で苦しんでいた私にはとても手の出せる価格ではないものの、店の前を通り過ぎるときにはいつも近づいて眺めていた。