わたしたちの好きなひと
第1章『わたしと彼と彼』
恭太が走る。
恭太がボールを追いかけて。
『彼がうちで唯一、全国区の5番よ』って、サッカー部のマネージャーの岡本が自慢しているのを聞いたことがあるけど。
恭太がだれでも。
なんと呼ばれても。
いま、公式大会を前に、屋上まで届くような声で仲間に指示を出している恭太が目指しているのは、もっとずっと先。
わたしなんかには想像もできない世界だって。
わたしは知っているから、ただ見つめている。
走る恭太を。