わたしたちの好きなひと
「シューコ?」
「外ポケットに…キャラメル、入ってる…から」
「キャラメル? なんだ、低血糖か? …びっくりさせやがって。どうしちゃったんだよ? ちゃんとメシ、食ったんだろ?」
 食べてないわよ。
 だれのせいよ。
 うわ。
 唇まで震えて、文句も言えないわ。
「ちょっと恭! …これ、開けて、出してやって」
 い…やだ。ちょっと!
「だめっ」
 やめて。だめ!
 ジュワワァア
 だめだって言ったのに聞こえたジッパーの開く音に、渾身の力で掛居の腕を振りほどいて。
 ふわふわ伸びた腕で必死に恭太の手からナップサックを取り返す。
「おっとっと」
 掛居があわてて手を出したけど。
 ころん…とキャラメルは飛び出して。
 掛居が転がるキャラメルのほうにかがんだとたん、ワンテンポおくれてポケットからこぼれたもの。
 それは、ペたん…と、わたしの足元の地面に落ちた。
 (いや――っ)
 伸びてきたのは恭太の、手。
 (だめっ)
 もちろん。
 地球がメリーゴーラウンドになっているわたしより、恭太のほうが早かった。
「返してっ!」「あなたたちっ!」
 叫び声がかぶって。
 わたしの提供したアリバイ工作は失敗。


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