わたしたちの好きなひと
「アンビリーバボゥ! アン、ビリィィーバボゥ!」
 止まらないウォーリーのお説教は掛居のせいだ。
『山菜川魚料理ってのが、イケましたよ、先生』とかって。
 正直が美徳じゃないこともあるでしょうに。
「センセ……、とにかく、まだほかのセンセたちには、おめにかかって…ませんから――…」
 ふらふらする頭を手で押さえて、レフェリーストップ。
 山田は真っ赤な顔のまま、きょろきょろとあたりを見回して、尊大に胸を張った。
「とにかく! 掛居くんと(こん)くんには、いまからの外歩き禁止と、明日の旅館待機を申しつけます! 稲垣さん、ふたりをバスまで連行なさい」
 はぁああ?
 またわたし?
 子どもじゃないんだから、駐車場までくらい、ふたりで行きますよ。
「謹慎! ハリアップ! ユ、マストゴー、クイックリー!」
 ちょっと。
 それ、わたしに言いましたね?
「…………」
 わたし不機嫌ですよ?
 おなかすいて、目ぇまわってるんですよ。
 いいでしょう。
 わかりましたとも。

 1-9分けの髪を振りたてながら、ひょろひょろと高山寺のほうに行くウォーリー山田を見送るわたしの髪も怒りで立ちそうだ。
 掛居に渡されたキャラメルの包み紙をガサガサむきながら腕の時計を見る。
「…まだ、30分ある!」
 むらむらとレジスタンス気分。
< 105 / 184 >

この作品をシェア

pagetop