わたしたちの好きなひと
 わたしがパーで差し出した手に。
 お守りが、恭太の手から、ぱふん…と飛んできた。
 交通安全――?
「…………」
 わたしの手のなかのお守りは、ちょっぴり温かい。
 ずっと持っていてくれた恭太の手の温もりだ。
「交通安全? また、色気のないチョイスだな」
 掛居はあきれたみたいに言って肩をすくめるけど。
 わたしには。
 これは。
 大事件。
 (だって……)
 だって、わたしが買ったのは野宮神社の、縁結びのお守りだ。
 恭太……。
 掛居に…ウソをついた。
 (なん…で?)



 結局わたしは、ひとりでバスにもどった。
 ほわほわと温かい胸に、温かいお守りを押し当てて。

 別れ際、2個目のキャラメルをむきながら
『あんたたちのせいで、お昼も食べてないんだから』って言ったけど。
 わたしがふたりといっしょに行けない、本当の、本当の理由は、掛居だってよくわかっていたはず。
 わたしは恭太といっしょになんか行けない。
『じゃあね』って言ったら、掛居はいつもみたいに、しーん…と怒りだして。
『じゃあな。ちゃんとメシ食えよ』って。
 恭太を連れて高雄橋のほうに歩いていった。
 お守りをにぎりしめて、ずっとその背中を見送っていたわたし。
 まさか……
 恭太が振り返ってくれるなんて。

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