わたしたちの好きなひと
 わたしはずっと、恭太のうしろ姿を見送っていた。
 わたしは恭太に見とがめられないときなら、いつだって恭太を見ていたい。
 ふられたくせに。
 きらわれたくせに。
 ずるくて、しつこい、ばかなわたし。
 わたしは恭太の目にどう見えたろう。
 恭太の視線、すぐにするっと地面に落ちてしまったけれど。
 また掛居と、京都を楽しめていると…いいな。


 車内でお昼寝をしていた運転手さんは、わたしのノックに跳び起きて。
 それでも親切にバスのなかに入れてくれた。
 にぎりしめていたお守りは、制服の胸ポケットに。
 (ねぇ、掛居……)
 ひとりだけ全然しゃべらない3人なんて、3人じゃない。
 そろそろ、わかってよ。
 わたしがいると恭太が笑わない。
 わたしの大好きな恭太の笑顔。
 せめて掛居は、いっぱい、いっぱい、もらってよね。

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