わたしたちの好きなひと
 岡本はそんな掛居の性格を知らないんだから、掛居が無責任に見えるのはまぁ…あたりまえだ。
「岡本……、わたしたち、チケットはもらってるんだから……」
「だからなに?」
 うわ。こわい。
「そうそう。なんなら岡本さんも美術館組と合流して、楽しんできてよ」
 掛居っ!
 火に油を注ぐなぁぁぁ。
「掛居氏。わたしは別にして、みんながどんなに明日を楽しみにしてたか、知らないわけじゃないわよね。わたしは別にして」
 うわ。
 岡本すごい。
 直球ど真ん中。
「だいたい掛居氏、あなた、まったく稲垣に悪いと思ってなさそうだけど?」
 えっ?
「や…だ。わたしは別に――…」
 わたしは別に……なんだろう?
 なんだろう、この気持ち。
「そうだな。シューコにはまだ謝ってなかった。――ごめんな」
 いやだ、掛居。
 ずっと逃げだしたがっていたのは、わたしなんだから。
 そういうの、いいよ。
 やめて。
「それが悪いと思ってる口調? 誠意のかけらも感じないんですけど」
「やめて、岡本」
 本当になんだろう。
 わたしってば――岡本がカリカリすればするほどホッとする。
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