わたしたちの好きなひと
「ほんと…ごめんな、シューコ。おれ、ちょっと考えなしだったな」
 えっ。
 女子みんなの視線がわたしと掛居に全集中。
 待って、みんな。
 ちがうから。
 この声、ちがうからっ。
 掛居のワンレンがさらっと頬をこする。
 これ、演技だからね、みんな!
「いっちょあがりぃ」
 耳に直接流されたささやきは、もちろん60年後の同窓会でも話せない、わたしだけの秘密だ。
 みんなの口が、ぽかんと開いてるのはもう見ないふり。
「……じゃな」
「…………ぅ」
 またやられた。
 わたしの手からお箸がテーブルに転がって。
 わたしにはもう掛居をにらむ力もないのに。
 掛居は待ちかねていた男子の歓声のなかに、お肉を持って颯爽と帰還していった。



 岡本の言葉どおり。
 わたしは部外者だった。
 乙女陳情団の【ウォーリー山田、泣きおとし作戦】。
 わたしが知ったのは、岡本とふたりで女子の6人部屋にもどってから。
 含重曹食塩泉41度という温泉の快適さに、なにもかもなかったことにして。
 大浴場の大鏡のまえでドライヤーを片手にブローに励むみんなの、おしゃれ自慢話を楽しんでいたのに。
『あんたも自然乾燥派?』
 わたしの腕を引いた岡本は強引だった。
 そういえばパーマをかけていたっけ、と気づいたからおとなしく従ったけど。

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