わたしたちの好きなひと
 掛居に強引に腕を引っぱられて。
 転がり出た先に――恭太がいた。


 (やっぱり)
 いやだ。やめて。
「めっちゃへソ曲げてたわ」
 掛居が恭太に笑う。
「わたし、行かない。…やだ、離してよっ!」
 いやだ。
 恭太と3人なんて、いや。
 掛居は見た目よりずっと男の子だから、力じゃ絶対かなわない。
 腕を離してほしかったら、ちゃんと気持ちが伝わるように、まっすぐ掛居の目を見るしかない。
 もがいて、もがいて。
 なんとか、にらめっこの態勢にもちこんだとき。
 うしろでカチッ。シュボッ。と音がした。
 (ライター!)
「タバコ吸うの?」
 びっくりして、思わず振り返って恭太に聞いてしまった。
「――弱小チームのメンバーだって、身体は大事に、する」
「ぁ…」
 恭太の声は、はっきりと怒っていた。
「ごめん……」
 スポーツマンが、タバコなんて吸うわけなかった…ね。
「ほんのジョーダンだよな。…ほら、シューコ」
 自分の軽率さに落ちこんで。
 うつむくことしかできなくなったわたしの手に掛居が押しつけたのは、なんだか細いもの。
 薄暗い廊下のフットライトにかざすように見ると。
「……線香、花火」
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