わたしたちの好きなひと
「好き? おれを? だったら、なんで正々堂々と向かってこねえんだ? ハエみたいにつきまとわないで、言ってくりゃいいじゃないか。おれに直接言ってくりゃいいんだ」
 それ。
 わたしに、言うの?
 (ひどいよ)
「そうしたらどうなる? 好きになって…もらえる、の?」
 返事してよ。
 してみてよ。
「……それで、ふられちゃった子はどうすればいい?」
 恭太、わかってない。
 全然わかってない!
「友だちにだって、してもらえないじゃない!」
「…………」
 言っちゃった。
「ごめん。忘れて」
 知らない場所のせい。
 夜のせい。
 ここにいるわたしは、わたしじゃない。

 エレベーターの下ボタンをパンパン押して。
 移動してくる黄色い数字を目で追いかける。
 (早く来て!)
 来なさいったら。

 やっとわたしの前に、明るく四角い別の世界が開けたとき。
 いつの間にか握りしめていた線香花火は、手のなかでしおれていた。
「シューコ!」
「…………っ」
 うそ。
 いまの恭太の声…だよね?
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