わたしたちの好きなひと
 エレベーターのなかから見た、暗い廊下のうえのシルエット。
 きらん…と反射したのは、恭太の目?
 恭太の目……。
 恭太の目、わたしを見てる?
 わたしにはわからない。見えないの。
 (ねぇ…)
 恭太から、わたしは見える?
 いま目を反らしたら、わかっちゃう?
 まだ。
 恭太を好きな。
 わたしの…気持ち。
「……っ……」
 泣いたらダメだ。
 制服のポケットに収めた縁結びのお守り。
 あのお守りは、いまでも夢みている証拠。
 結ばれることなんて、ない。
 もう…切れちゃったのに。
 (見られたくなかった)
 恭太にだけは、見られたくなかったよ。

 わたしには思いがあふれる束の間のふたりきり。
 でも恭太には、きっとただ気づまりなだけの時間。
 先に、ふいっと視線をそらしたのは恭太だ。
 エレベーターからもれる明かりを、ぽちりと反射していた小さな光は消えた。
「みんな、恭太が好きなのにっ!」
 閉まるエレベーターのドアから叫んでいた。

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