わたしたちの好きなひと
 ひとつずつ動いていく、光る数字。
 ぼんやり横目で確かめながら、手のなかのしおれた花火の数をかぞえた。
「シューコだって……」
 ぼやけた頭は3から先に進まない。
 (ああ…)
 恭太がシューコって呼んでくれた。
「いい…よね」
 泣いても。


 ぐっすり眠れなくて何度も目をさました。
 何度目かに、もう寝返りを打つのも眠っているみんなに悪い気がして、薄暗い部屋の壁を伝いながら廊下に出た。
 廊下のつきあたりの小さな窓は、うす紫。
 朝焼けだ。
「……ぇと、なんだっけ?」
 靴下も履かずに共有のスリッパを使うのは悪い気がしたので裸足だし。
 絨毯のおかげで音が吸われるのをよいことに、真っすぐな廊下を走る。
「うわー」
 背伸びしてのぞいてみた空。
 昇ってくる太陽と逆、西のほうが魚のうろこのような(いわし)雲。
「なんだっけ?」
 むかし、お父さんが言っていた。
 いっしょに釣りとか虫取りとか、行っていたころ。
 ドイツのことわざだって自慢して……。
「そうだ」
 秋の朝焼け、雨とぬかるみ。
 今日は雨が、降る。


 * * *


「じゃね、秋子(しゅうこ)
「はい。いってらっしゃーい」
 行き先に合わせて早朝から割り振られた電車にまにあうように、それぞれの班が出発していく。
 土曜出勤の地元の皆さんに配慮して、ラッシュに当たらないよう分散されたなかで、わたしたち宝塚班の出発は下りの最終班。
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