わたしたちの好きなひと


 * * *


 さっきから、(いえ)デンの前をうろうろ。
 明日の合格発表が不安で。
『大学でまた――…』
 恭太の声が耳から離れなくて、不安で。
「でも、もう9時すぎちゃったしな」
 何度おなじことを言ってるんだ。
 ちょっと前、8時半すぎちゃったって言ったのはだれ?

 毎日、毎日、砂埃にまみれてボールを追いかけていた恭太。
 日に焼けて真っ黒だったサッカー少年が、どれほどがんばったか。
 わたし…知ってる。
 人造人間になるって宣言したあの日から。
 休み時間も参考書に向かっていたもんね。
 それなのに。
 落ちても笑っていた。
 わたしだったら、ひとつでも落ちていたら、一高の試験にはもう平静に挑めなかったと思う。
 やるだけやった。
 それなのに、こんなに不安なんだから。
「どうしよう……」
 恭太に大丈夫だよって言ってほしい。
 恭太が大丈夫だって言ってくれたら、わたしきっと、今度も大丈夫だって信じられると思うんだ。


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