わたしたちの好きなひと
〔はい、今です〕
電話には恭太がでた。
「わたし……秋子」
〔――なんだ。どうした〕
その声は、思いっきりつっけんどんで。
わたしがなんとなく期待していた恭太の声と全然ちがったから。
「あの…」
〔なんなんだよ。わざわざ電話してきて黙るな〕
「どならないでよっ」
こんな……、そんな……、
どなられたら、なにも言えないよ。
〔用もないのに電話してくんなよな〕
恭太が悪い。
いつもみたいに、やさしく、ない。
恭太…が、悪い。
〔切るぞ!〕
「待って!」
〔…………〕
電話の向こうで恭太が、黙る。
(恭太の、ばか)
「わたしたち、ずっと友だちだよ…ね」
もし、わたしが一高を落ちて。
恭太が落っこちちゃった私立に行くことになっても。
「…………」
〔…………〕
「…………」
〔…………〕
目の前で、置き時計の秒針がコチッコチッと進んでいく。
ふたりして黙ったまま、90度。
〔それは、おれが、落ちるって言いたいわけ…か?〕
「えっ? やだ、ちがう!」
そんな…、ちがう!
〔おまえの気持ちは、よくわかった〕
ちがう!
〔じゃな〕
「待って。ちがう。やだ、ちがうっ」