わたしたちの好きなひと
 こんなに離れたくないって思ってるんだよ?
 次は大学で…なんて。
 そんなの、いやだ。
〔もう、いいよ。切るぞ!〕
「待って!」
〔…………〕
 返事してよ。
 黙ってないで。
 恭太が黙ってると、言っちゃうよ。
 わたし、言っちゃう。
「好きなんだもん」

 ぎゅっと耳に押しつけているのに、受話器からは、なにも聞こえない。
 時計の針だけがコチッコチッと耳に届いて。
〔いま…そんなこと、言ってほしくなかった〕
 それは、台風のなかを飛んできた1枚の新聞紙みたいに、わたしの耳にばさっ…と貼りついた。

 ブツ ツ一ツー ツーツー

「…………」
 ずるずる床に座りこみながら、切れた電話にひとりごと。
「…ふられちゃった」
 こんなに簡単に、終わっちゃった。
 わたしと恭太の2年間。
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