わたしたちの好きなひと
「涙…くらい、流せよ、シューコ」
 掛居のまねをして冷たく言ってみても。
 ほっペをぎゅっとつねっても。
 涙はひとしずくも出てこなかった。
 心までカラカラに干からびて。



 913、914。
 そのふたつ並んだ番号を掲示板の上に見つけたとき。
「よし。開成やめた」
 掛居は静かに言った。
 なんでだろう?
 わたしは、ちっとも驚かなくて。
「はい…シューコも。935、おめでとう」
 掛居の差し出す手をにぎりかえしながら、わたしの視界はきゅうにぼやける。
「なんだよ。受かったんだから……泣くな」
 掛居は恭太を信じていた。
 振り向かなくても。
 手をかさなくても。
 恭太が同じ道を歩いてくるって。
 そうだよね。
 わたしは――――?
 わたしは、なんだってもっと自分も恭太も、信じられなかったんだろう。
 心からの言葉なら、本当のさようならまで言うんじゃなかった。
 見返りを求めない、本当の好き…なら。
 押しつけたりしちゃ、いけなかったのに。

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