わたしたちの好きなひと
 ほんのいっとき、恭太に支えてほしくて。
 恭太に甘えて……。
 残りの時間を全部、なくしちゃった、ばかなわたし。
「掛居……」
「…ん?」
 掛居のやさしい手、わたしの肩の上。
「わたし、ふられちゃった」
「――――言っちゃったのか」
「うん」
 折居は全然驚かなかった。
 わたしの告白。
 相手がだれかも聞かない。
「なんで待てなかった。タイミング…悪すぎだよ、シューコ」
「うん……」
 ゆっくりと。
 事務棟のほうに歩きだしながら、肩のぬくもりの意味を確かめたくて。
「掛居は……どうする?」
 わたしはリタイアだもん。
 あとは、掛居にタッチ。
 それで、いいんだよね?
「…………」
「…………」
 掛居は、立ち止まって。
 わたしの目をのぞきこむ。
 真剣な顔が、ちょっとまぶしいけど、ここで目をそらしたら、もうひとり友だちをなくすって、わかっていたから。
 心をこめて、一所懸命、掛居に伝わるように。
 だんだん緊張で震えてくるわたしの唇を、掛居が人指し指で突いた。
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