わたしたちの好きなひと
 どこでもまず、たどり着いたらケータイをかざして激写。
 あわよくば恭太の姿もお寺といっしょに収めようとしている集団のうしろに、こそこそ回りこんだ。
「だけど…安産の神様は、ちょっときみたちには早すぎるんじゃない?」
 掛居が岡本をからかっているのが偶然聞こえてしまった。
「だって! ほかに上演までの時間がつぶせる適当なところ、なかったのよ」
 岡本が真っ赤になって。
 ベンチ組のみんなと山田が大笑い。
 笑っていないのは恭太とわたし。
 結局、恭太の目にとまるところに図々しく交ざっているわたしと。
 きっと、そんなわたしを不快に思っているだろう恭太だけだった。


 売布神社(めふじんじゃ)清荒神(きよしこうじん)
 あきらめたのか、だんだんガイドさんのように引率を始めた岡本と、どんどん無口になっていく掛居。
 宝塚駅に着いたのは、開演にはまだ間がある10時20分。
「いったい、なにごとですかね、この女性たちは」
 山田が眼鏡をはずして、神経質にハンカチでこすりながら目を瞬いている。
 好奇心旺盛な娘たちは、改札を出たとたん、恭太のことをすっかり忘れたふうにそれぞれに興味を引かれたものへと散っていった。
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