わたしたちの好きなひと
 アトラクションワールドに誘う舞浜駅とはちがう、それぞれのお店は独立した風情なのに1本つらぬかれた夢空間へのエントランス。
 つい誘われてのぞいてしまう、小さな間口のおまんじゅう屋さんや、華やかなレースに飾られた小窓、ピンクがあふれるお土産物屋さん。
「すっごーい」
 つぶやいたわたしに山田がうなずいた。
「これほどとは……」
 沿道から別世界感を盛りあげていく演出に、そぞろ歩く女性たち。
 この街で暮らしているかたと訪問者のちがいが、わたしなんかにもわかるくらい異世界がすぐとなりに存在する街。
 (どうしよう)
 わたしったら、なにも知らないで……。
 食事はここ、買い物はここ。
 駅からの距離だけでマップを作ったわたしなんかがいていい場所じゃない。
「稲垣さん。あなたがた観劇組は、1時開演だとかって言ってましたよね」
 とりあえず、しゃべれているだけでも山田はえらい。
 わたしなんて目がまんまる。
 感想なんて、ひと言もなしだ。
 なにしろ掛居みたいな男のひとが、ふつうに歩いている。
 金髪でとびきり派手でおしゃれなひとたち。
 ぞろぞろうしろを女性たちがついていくのもわかる気がする。
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