わたしたちの好きなひと
 なによっ。
 わたしだって自分をイヤなやつだと思ってるんだから放っておいて。
 どうせわたしは、こうやって、きらわれることばかりするのよ。
「ほら、修学旅行のお知らせだよ。ほかの組の子は早く教室に戻りなさい。うちの子は、さっさと教室に入る! 配るよ?」
 悲しくて悔しくて。
 じたばたしたいのをこらえて委員の顔でわたしが言うと、廊下にいた女の子たちが、みんなわたしのまわりに集まってきた。
  「そうか、修学旅行の!」
  「ひゃぁー。見せて見せて、秋子(しゅうこ)ぉ」
 そういう態度、恭太のまえで見せていいの?
 恭太は絶対に!
 旅行には参加しないんだからね。
 勝ちあがって全国に進むんだからね。
「あーもう。いま配るから! 教室に入りなさい」
 ひとりふたり、お尻を叩きながら、みんなを教室に押しこんで。
 やれやれ…と振った頭で、廊下のずっと向こうのワンレンをキャッチ。
 掛居だ。
「あ。シューコ。まにあったな。恭。…ちゃんと渡してくれた?」
「おう。なんだよ、早いじゃん、拓弥(たくみ)
 とっくに教室のなかに入ったと思っていたのに。
 掛居に応える恭太の声が背後からして。
「……っ……」
 驚きに心臓がぎゅうっと縮んだ。
 いつだって恭太のことは見ないように、見ないように、しているから。
 こんなふうにふいをつかれてドギマギしてしまう。
 (落ち着いて!)
 掛居もいるいまは、動揺したらいけない。
 絶対に。
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