わたしたちの好きなひと
第14章『わんつーらんでぶー』
だめだ。
やっぱり次で降りよう。
乗車代金は、切符を落としたことにして……。
駅員さん、ごめんなさい。
「本当に記憶力はネズミ以下だな、おまえ」
わたしが立ち上がったのと、恭太がわたしの腕をつかんだの。
どっちが先だかわからない。
「おまえが最初におれのこと、怒らせたんだ」
(わかってる)
わかってるから、もうやめよう。
「ごめん……」
「シューコ!」
「…………っ」
だれかに膝の裏を叩かれたみたいに、すとんと座っていた。
知らない町の、初めて見る景色が、怒の外を飛ぶように流れ去る。
「もとはといえば、おまえが悪いんだ。おれはねぇ、確かにおまえよか頭は悪いのかもしれないけど。記憶力には超絶自信があるからな。理科と社会がないのは、すっげー不利だったんだよ。だから、どのみち私立は期待してなかったの、最初から」
恭太がまるで、わたしが知っていたころの恭太みたいだから。
「いいわけ…しちゃってぇ」
するっと出てしまった。
「そうやって、いっつもおれのこと、ばかにすんだよ、おまえは」
「ごめんね」
ああ……。
言ってしまえば、こんなに簡単だ。
もうずっと。
一生、言えないと思ってた。