わたしたちの好きなひと
 そうだね。
 恭太、理科系はなんでも得意だ。
 地理で習った天気図のマークだって、その時間のうちにすべて覚えてしまった。
 授業後に先生と楽しそうに話していたの、わたし見てたよ。
 先生が感心していたの、うれしかった。
 誇らしかったよ。
「極地天気…、見てみる?」
 ケータイをしまってあるナップサックに手をかけると、恭太の手がぽんとわたしの手にのった。
 それだけで心臓が壊れそうにドクドクするけど、それは恭太には知られちゃいけない、わたしの《好き》だから。
 ナップサックにうつむいたまま、そっと手をにぎりしめた。
「運で…いいんだ。どうしても晴れていてほしいから」
「…………」
「…………」
 あとは黙って。
 電車は走る。



 電車が石生(いそう)という駅に着いたのは、12時3分。
 ちょっと雲が多いけど、太陽は頭上で鈍い黄色に輝いている。
「すげーな」
 恭太がズボンのポケットに両手をつっこんで、空を見上げてる。
 (なにが?)
 良い天気とはとても言えないし。
 太陽はたとえアメリカから見たって、アレひとつ。
 見上げたところで、うれしいものかしら?
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