わたしたちの好きなひと
「もう。…これ見ろよ、シューコ」
 廊下を悠々と歩いてくる掛居の腕は、黒いものを抱えている。
 美術部の子が持っているものよりずっと太くて長い、ポスターケース?
「ごめん。委員会、呼ばれたの?」
「シューコ、食事中だったし。恭太と行ってきた」
 そんな。
「わたし、行ったのに」
 走り寄るわたしに、掛居がゆさっと腕の荷物を揺すった。
「これを恭に持ってもらえばよかった。遠慮するんじゃなかったわ」
「なに言ってやがる。おかげでおれが怒られたわ」
「……っ……」
 思いがけない恭太の言葉に息を飲んで。
 掛居に腕を伸ばしたまま、髪をつかまれたように立ち止まってしまった。
 いやだ。
 わたし、怒ってない。
 怒ってないよ、恭太。
「ん?」掛居が立ちすくむわたしを見た目を奥に送る。
「シューコを怒らせるようなことしたのか、恭太」
「ケツに押しこんできたから、紙…丸まっちまった」
「ああ…」
 掛居がわたしの手が握りつぶしてしまったプリントの束を見た。
 硬直しているわたしに気づいてほほえむ顔。
 こわい。
 なにを企んでるの?
「シューコも握りしめちゃってるから共同責任だな。ノーカン」
「…………っ!」
 自分でもわかる。
 わたしの顔、赤くなってるよね。
 首まで熱い。
「な、シューコ」
 掛居がわたしの肩に手をのせた。
 教室に逃げこもうとしたわたしの先読みをしたみたいに。
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