わたしたちの好きなひと
 どうにもベクトルが斜めを向いちゃうわたしに、恭太は得意気に言った。
「東経135度」
「はぁ――?」
「ほーらみろ。地理は絶対おれのほうが得意だ」
「…………」
 べつに、いばってもらってもかまわないけど。
 本当に意味がわからない。
「明石を通ってる子午線、この町にも通ってるんだ。おれら、本当の正午。太陽ド真ん中の町にいるんだぜ」
 言われて見上げた太陽は、確かに首が痛くなるほど真上にある…ような気がするけど。
 くすっ。
「あ、笑ったな、おまえ」
「笑ってないよ」
 ただ。
 この時間に、この町にいるために。
 どんなに時刻表とにらめっこしたか……。
 想像したら、うれしくなっちゃっただけ。
「つまり、今回のエスケープは掛居主導じゃないんだね」
「ん? いつも誘うのはおれだぞ。拓弥(たくみ)はついてくるだけ」
「うそっ」
 けど、それって……。
 だって、線香花火…は?
「さーて。どっかでメシ食おうぜ。もうガス欠だい」
 待って、待って。
 もう少しながめさせて。
 ほんの少しだけ期待してもいいなら、せめて掛居の分も。


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